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それまでサリンジャーを読んだことのなかったジョアンナ(マーガレット・クアリー)が、「バナナフィッシュにうってつけの日」を読んだあとでダニエル(コルム・フィオール)の悲劇をどう捉え直したか、あるいは「フラニー」を読んだあとで、カール(ハムザ・ハクドン)やドン(ダグラス・ブース)を遠ざけるしかなかった自分を見つめる新たな角度を手に入れたのか、いずれにせよジョアンナは、サリンジャーは残酷だ、という結論にたどりつく。それが、どれだけ願ったとしても世界は君を一顧だにしないにも関わらず、君は世界の法則から逃れることはできない、そして君が聡明で純粋であればあるほどそのシステムが君において暴力的なまでに機能してしまうとしても、君はその聡明さと純粋さで希望を照らさねばならない、なぜならそこにしか私たちの自我は可能性を持てないからだ、というサリンジャーの孤高が険しいことを知るばかりだったからこその言葉だとしても、それを知った以上、もうそれまでの自分ではいられないのだという清冽な痛みを伴う訣別によって、上昇するキャリアの成長物語とは一線を画している。編集者ではなくエージェントとして書く人をサポートするマーガレット(シガニー・ウィーヴァー)の、書かない人として捉える世界がいささか紋切り型のまま推移してしまうせいでさらなる複層に手が届かない物足りなさはあるものの、サリンジャーをことさら神格化せず“ひょこひょこおじさん”としての後姿を見つめるジョアンナの視点を譲らなかったことで、サリンジャー=ホールデン・コールフィールドの呪いというよりはサリンジャーという機能が描かれたのは新鮮なアプローチに思えた。リアルタイムの若い読者より他が「ライ麦畑でつかまえて」への耽溺でサリンジャーを語るのは、いまだにセックス・ピストルズによってしかパンクを語れない思考の停止にも似てうんざりするばかりなのでなおさらそう感じてしまう。紆余曲折あって今に至るも「ハプワース16、一九二四」が単行本として出版されていないアメリカとちがい、発表された作品のほとんどが翻訳された日本で「ハプワース」まで見届けたライ麦畑の読者はどれだけいるんだろうか。
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