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ブランドン・クローネンバーグがそのラストネームから自由になることにそれほど頓着しているように見えないのは、彼の内部ではとっくにその幻視世界を棲み分けていることの自明と自負が、特にそのことを目的にするでもないまま築かれているからなのだろうし、それは例えば、愛はどこへ行った?と問われた場合、愛は最初からそこにずっとあってそのことしか私は語っていないと答える父に対し、どこへも行っていない、なぜなら最初からそれはそこにないからだと答えるのがブランドンであり、今作はそのマニフェストとして謳われたといってもいいだろう。タシャ・ヴァス(アンドレア・ライズボロー)にとって別居する夫マイケル(ロシフ・サザーランド)と息子アイラ(ゲージ・グラハム・アーバスノット)との絆こそが彼女が振るう暗殺の手腕を鈍らせかねないノイズであり、それに対処するための地獄めぐりこそを監督はサスペンスとして抽出し続けていて、彼女がたどり着きたかった場所とそこに至る葛藤の方向さえ見誤らなければ、マイケルとアイラを葬り愛や希望という名のリミッターをはずすことで、自身を奥底で駆動する感情の絶対値とそれがもたらす安寧を手に入れたタシャのハッピーエンドを祝福しないわけにはいられなかったのだ。かつて父がまみれた肉体とクロームが溶け合うオブセッションを、ブランドンはナイフや火かき棒といった無骨をひたすら直截に肉体へと突き刺すことでその出会いのロマンスを無効化してみせていて、かつて父が身をおいたフィールドをあえて追走しつつエピゴーネンやパスティーシュの跳弾を寸止めでかわすブランドンのニヒルは、今のところ非常に信頼に足るナイフさばきであるようにワタシには思える。血の照りと粘度へのフェティッシュもとても具合が良い。
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