2021年11月26日

アイス・ロード/幸福の黄色いトラック

The_Ice_Road_02.jpg
オフィシャルサイト

氷の道はニトロの代わりにはならないことを脚本家兼監督はどの時点で気がついたのか。とりあえずはどうすればマイク(リーアム・ニーソン)にさらなる負荷をかけることができるのか無い知恵を絞った脚本家兼監督は、イラク戦争の帰還兵でPTSDと失語症に苦しむ弟の面倒を見ながら謎の殺し屋と闘わせるだけではまだまだ全然足りないとばかり、そもそもローレンス・フィッシュバーンがチームにいたらこんなミッションなど楽勝で達成してしまうことに遅ればせながら気づいた脚本家兼監督は『ディープ・ブルー』のサミュエル・L・ジャクソンを更新する勢いであっけなくストーリーから彼を消し去ってしまうのだ。となれば、路肩から転落し大破したピックアップから殺し屋トム・ヴァルナイ(ベンジャミン・ウォーカー)が無傷のまま這い出したところで不思議でもなんでもないどころか、種火を切らしたら負けだとばかり本来はマジカルな救世主枠の弟ガーティ(マーカス・トーマス)の命すらを薪にしてくべてしまうわけで、ことあるごとに立ち尽くしては確かめた感情を心ゆくまでやりとりするマイクとその仲間たちはとっくにタイムサスペンスの縛りや煽りもどこ吹く風で、それでもやけくそを擦り続けさえすれば発火はするもんだなあと感心半ばの半笑いでエールを送っていたのだ。そして思わずスリムクラブ真栄田の声色で「毎晩お話ししてくれたでしょう、この世で一番強いのはウィンチだって」とつぶやいてしまうくらい、いつしか主役はウィンチにすり替わっていたわけで、ジム・ゴールデンロッド(ローレンス・フィッシュバーン)の命を奪ったのも、ガーティを最初に殺しかけたのもすべてウィンチの仕業だったことを思い出してみれば、手なずけたつもりがいつ牙を剥くともしれぬウィンチこそがマイクにとって最大の脅威だった気すらしてしまうのだ。ただ、この脚本家兼監督がブライアン・ミルズの誘惑に最後まで抗った点については評価すべきで、終盤の氷上で繰り広げるヴァルナイとのタイマンでは、なぜ一介のトラックドライヴァーがプロの殺し屋とそこまで渡り合えるのかはともかくとして、少なくともCIA元工作員の体術ではないブチ切れた素人の大暴れにリーアム・ニーソンをとどめようと心を砕いていたことは見てとれたのだ。だから、橋が落ちてしまったにも関わらず後続のマイクはいったいどうやってあの場にかけつけて息絶えた弟の頬を撫でることができたのか、もうそんなことまで考えている余裕がこの脚本家兼監督にあるはずもないことを知るワタシはあえて詮索などしないのだ。そんな風にして特にどんでん返しの必要もない勧善懲悪に落ち着いた物語は、ケンワースの新車と独り身の自由を手に入れたマイクの軽やかな旅立ちで幕を閉じつつ、坑内の残り少ない酸素を節約するために重傷者の間引きを言い出したあの口髭の鉱員にとって、全員救出というハッピーエンドこそが彼の生き地獄になるという悪意の表出をこの脚本家兼監督がまったく気に止めない野放図が今もワタシをもやもやさせるのだった。いい加減で機は熟したように思うので、そろそろリーアム・ニーソンとニコラス・ケイジの共演をピーター・バーグあたりの監督脚本で画策してもらいたい。
posted by orr_dg at 14:35 | Comment(0) | Movie/Memo | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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