2021年09月07日

オールド/きみへ渚にて

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オフィシャルサイト

もしビーチに行かなかったとしたら、プリスカ(ヴィッキー・クリープス)はトレントとマドックスが成長した姿を目にすることなくこの世から若しくはカッパ家から去っていただろうし、ああしてガイ(ガエル・ガルシア・ベルナル)と終世を共に添い遂げることもなかっただろう。様々な基礎疾患を抱えた彼や彼女にとって、はじけ飛ぶように加速する人生の真の恐ろしさは、老化と死への恐怖はもちろんのこと、本来は緩やかであったかもしれない痛みや苦しみが高濃度に凝縮されて打ち込まれるオーヴァードーズのそれであって、わけても統合失調症と低カルシウム血症をそれぞれ患うチャールズ(ルーファス・シーウェル)とクリスタル(アビー・リー)の夫妻を襲う容赦のない断末魔を念入りかつ執拗に描くシャマランの麗しい趣味には惚れぼれするしかなかったし、ラストに用意されるツイストの意外な収まりの良さを思うと、今作はその錐揉みよりはそこに至る真空状態の酩酊こそを愛でるべきで、導入部分で6歳のトレントが出会う人に片っ端から職業を尋ねるシーンなど、通常の手続きで人物の相関を探り合うのももどかしく、私は一刻も早くビーチに行きたいのだ、行って人々をそこに放り込みたいのだというシャマランの焦燥にすら思えたわけで、なにしろ今回のシャマランはカメオというには少しばかりしつこく、しかも監視者/窃視者という役回りでスクリーンに現れ続けるのだ。物語はそれが行き着く場所ではなく運び続ける足取りを語る意志そのものを指すのであり、それを信じる者は救われるのだ、というかつて『レディ・イン・ザ・ウォーター』で明かしたマニフェストはいまだ誇らしげに掲げられ、ハッピーエンドとバッドエンドが互いを相殺するゼロ地点に着地する勇気は、イーストウッドをして晩年に到達した境地そのものであるようにも思え、監督への畏敬の念はいよいよ増すばかりなのだった。ホテルのマネージャーの甥っ子がトレントのIFもしくはスーパーナチュラルな存在だったらどうしようと少しだけドキドキしたけれど。
posted by orr_dg at 23:15 | Comment(0) | Movie/Memo | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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