2021年02月15日

私は確信する/それでも彼はやってない

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オフィシャルサイト

実在しないトミー・サンダースという警官を作り出して散らばった断片を彼に投影することで、あの日の出来事を串刺しにしてピーター・バーグが高々と掲げたのが『パトリオット・デイ』であったように、今作の主人公ノラ(マリナ・フォイス)も監督の創造物として生を受け、その意を受けて実話のストーリーを撹乱し続ける。という成り立ちをワタシは鑑賞後に知ったのだけれど、ある女性が失踪しその夫と愛人がその関与を疑われた事件という冒頭のテロップだけを手持ちに臨んだ時、これがある局面の打開に決定的な役割を果たしたノラという女性の物語であることを露とも疑うはずもないまま彼女に併走したわけで、後になって彼女が実在しない存在であることを知らされてみれば、では監督は現実の記録/記憶のどの部分を新たに駆動すべく彼女を手足として使い続けたのか少々困惑してしまったのだ。これが完全なフィクションであれば、失踪した女性の夫ジャック(ローラン・リュカ)の無実を信じ彼を冤罪から救うべく奔走するノラが、その無実を立証する新たな証拠を精査するうちジャックの関与をほのめかす事実にたどりついてしまい、その限りなく黒に近い灰色に法律のアマチュアである彼女はどう立ち向かうのか、次第に真実と現実との挟間に堕ちていくその姿を司法制度の欠陥に重ねることでジャックと彼女の地獄を描くことが可能だったように思うのだけれど、実話に基づいた今作では“失踪した女性の夫ジャックの無実を信じ彼を冤罪から救うべく奔走するノラが、その無実を立証する新たな証拠を精査する”ことで“司法制度の欠陥”めいたやり口を再考証する駒として彼女が投入された表向きしかワタシには映らないわけで、ならばずいぶんと回りくどいことをしたものだなあとけっこうな肩透かしを食った気がしてしまったのだ。ワタシが知らないだけでジャックに関する限り元々が冤罪の色濃いケースであって、それを覆す新たな傍証および解釈の提示を監督が狙ったのであれば、特にジャックと縁やゆかりがあるわけでもないノラの、いささか首をかしげるほど一方的な彼への肩入れも理解はするのだけれど、あらためてフィクショナルなキャラクターとしてのノラを追ってみた時、シングルマザーの彼女が仕事を失ってまで通話記録の解析にのめり込むその姿はあくまでジャックの無実を信じるがゆえなのか、もしくは真実という麻薬に溺れるジャンキーとして堕ちていく地獄の日々であったのか、彼女の暴走を見かねてデュポン=モレッティ弁護士(オリヴィエ・グルメ)が諭す「法廷のプロセスは検察と弁護側それぞれの仮説のどちらを選ぶかという手続きに過ぎない」という言葉を思い出してみれば、乱反射する真実の欠片に魅入られて一人息子との生活までも危険にさらしていくノラの姿をある陰謀論者の誕生と重ねてみることも可能ではなかったかと、ワタシがノラに見たのはむしろパラノイアの軌跡だったように思ってしまうのだ。しかしそんな風にワタシの切った舵で泥舟は桟橋に激突することも浅瀬に乗り上げることもなく、気がつけば静かに横づけされた泥舟からワタシ以外の誰もが泣き笑いで抱き合いながら下船しては、みな粛々と家に帰っていくばかりなのであった。惹句のヒチコックは、ジャックがやけに真面目くさった顔で『バルカン超特急』と答えるシーン以外、清々しいほどにただの惹句でありつづけ、しかしそれくらい許してやらなければ他に何を言いたてることができたのか、その危うい丸腰を知っているワタシは別段腹を立てることはしないのである。せめてフィンチャーのように、通話記録を空間にタイプするくらいのケレンがあったらなあとは思うけど。
posted by orr_dg at 22:00 | Comment(0) | Movie/Memo | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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