2021年02月08日

ダニエル/地獄で会えたぜ、ベイビー

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オフィシャルサイト

ルーク(マイルズ・ロビンス)が乱射犯シグペンの実家を訪ねてある確証を手に入れることでオルター・エゴとしてのダニエル(パトリック・シュワルツェネッガー)をなぞるラインをあっさりと消し去り、躊躇なく退路を断ったその先で待ち構える地獄の泥仕合においてSpectreVision謹製のサインがほくそ笑むように輝き始める。直近でいえば『ジョナサン−ふたつの顔の男−』が抑制の利いたメランコリーで畳んでみせた風呂敷の折り目にくらべてみた時、せっかく広げたそれを後生大事に畳むくらいなら、いっそそいつを体に巻きつけて血と涙と涎の染みをつけてやるぜ!と吠えまくる哄笑があるかなきかの地平を突破していくわけで、それなりの巧妙さで配置してきた母クレア(メアリー・スチュアート・マスターソン)や精神科医ブラウン(チュク・イウジ)の神経症的な伏線を一気に台無しにしたあげくチャンバラからの肉弾戦でケリをつける最終決戦に至っては、この手のジャンルであれば闇を祓って光を抱く役目のキャシー(サッシャ・レイン)すらが意味ありげで意味なしげというそれはそれで斜め上に筋を通す職人のこだわりで、たとえばスキゾフレニアを実効的に解体する戦略としては『ジェイコブズ・ラダー』の縁遠い嫡子といってもいいだろうし、実際にいくつかのヴィジョンにその自覚としての相似がうかがえもする。中盤での全方位的なツイストもあって、イマジナリー・フレンド/オルター・エゴの設定およびそこから派生するルールが縛るはずのサスペンスが無効化されてしまうせいでいきなり道端に投げ出されはするものの、この映画が本領を発揮するのはその先の赤黒く沸き立つ乱戦にほかならず、はたして夜中に起きたあれは悪夢だったのか現実だったのか、できれば夢であってくれとうつつのままに目を覚ましたルークの意識を追うカメラがパンして部屋の中を映していく一連に「へレディタリー」のあの朝を思い浮かべたし、Clarkの神経症的なミニマルとクラシカルなケレンが躁鬱的に乱反射するエレクトロニカに追い立てられるように、前半でせっかくしつらえたニューロティックなサイコスリラーの意匠をひっくり返して台無しにしながら逃げ騒ぐインシディアスな終盤は一粒で二度おいしく思えたりもしたのだった。そしてなにより、爬虫類の偏執で低温火傷を誘うパトリック・シュワルツェネッガーが喝采すべきこの映画のでたらめを最後までたった一人踊るように支えていて、あれほど凶悪な地獄の魂をなぜああまでたやすくドールハウスに閉じ込めることができたのか、なぜそのまま大人しく囚われていたのか、それなりに決定的なレベルのでたらめを看過したのも酷薄にチロチロとねめつける彼の青白い眼差しに心を奪われていたからに違いなく、ついぞ父親が持ち得なかった2世ならではの純粋培養されてくねるような色艶を抽出した製作陣の慧眼を讃えるに全くもってやぶさかではないのだった。
posted by orr_dg at 23:33 | Comment(0) | Movie/Memo | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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