2020年02月14日

ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密/キャピタル・アメリカ:ノー・タイム・トゥ・ライ

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オフィシャルサイト

※当然のごとく展開に触れています

マルタ・カブレラ(アナ・デ・アルマス)は家政婦というわけではないけれど、『マダムのおかしな晩餐会』『ROMA』そして『パラサイト』と続く、持つ者が持たざる者の価値を決定する社会への中指をさらなる持たざる者としての女性がつきつけるサスペンスを解とするミステリに、かつてあったものの失敗と退場だけでできあがっていた『最後のジェダイ』のことがふと頭をよぎりつつ、希望とは善くあることを望むことだと皮肉や絶望を封じ込んだ『ルーパー』にまで思いを馳せてみれば、ライアン・ジョンソンと言う人が常に変わらぬ気分で彼方の光を見つめていることをあらためて確信したのだった。誰がなぜどうして?というミステリをミステリたらしめる要素それ自体は刺身のツマだと言わんばかりに早々と投げ出され、慇懃無礼な紳士探偵ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)は、マルタの備えたある重要な2つのポイントを頼りに彼女を補助線とすることで、謎解きというよりはいわば人間性テストの仕掛け人としてスロンビー家の寄生虫をあぶり出していく。とはいえ下衆をおちょくることに生きがいを見出しているかのようなこの探偵が途中経過的な素ぶりを中盤以降見せなくなることもあり、おそらくはこれをマルタの闘争とするためのさじ加減ではあるのだろうけれど、では伏線も使い果たした一本道のその裏でいったい何が進行しているのか、そもそもこの物語はどこへ向かおうとしているのか、その目隠しされたような曖昧がサスペンスを持続させるという摩訶不思議なミステリが展開されるわけで、本人いうところの“ドーナツの穴”に徹するこの探偵のややこしいチャームがあればこそ、まるで隣のレーンのピンを全部なぎ倒すような逸脱したミステリをアクロバットのように着地させた気がしたし、そのある種のでたらめさは原作脚色ものでは不可能な味わいと言ってもいいだろう。その最たるものと言っていい、嘘をつくとゲロを吐いてしまうというマルタの特性を思いついた時点でライアン・ジョンソンは小さくガッツポーズをしたのだろうし、おかげでマルタは4回にわたりゲロを吐くことになるどころか、目の前でいきなり植木鉢に吐くマルタを見て「文字通り吐くとは思わなかった…」と感嘆するブランの図から始まり、ついにはとどめのゲロをぶっ放すことで見事に円環を閉じる離れ業に、アカデミーはよくぞこの脚本をノミネートしたものだと、その闊達が『パラサイト』への底抜けの祝福を誘った気もしたのであった。それにしても、誰も殴らず銃も撃たず車すら運転しないアメリカの探偵となるとそうそう記憶になく、ホームズはともかくポアロまでがマッシヴなヒーロー化することで隠さないフランチャイズへの貪欲をせせら笑うようなこの探偵はそんな昨今にあっては新たな発明といってもいいのだろうなと思っていたところが、どうやらスタジオは探偵ブランの次作にGOを出したようなのだけれど、よくよく思い出してみればこの事態を解決に導いたのはマルタと彼女の善きゲロのおかげであったことに気づくわけで、ならばいっそのことマルタをワトソンにしてしまえばいいのではないか、彼女の能力を外部感応型に改良するくらいライアン・ジョンソンなら朝飯前だろうと煽ってみておくことにする。南部なまりでフレンチネームの探偵とプランテーションの地主のような屋敷、そしてスワンピーなストーンズとくれば、ラストシーンの逆転の構図がさらに味わいも増すわけで、そうやってアメリカを解放していくのだろう探偵ブランのさらなる活躍を楽しみに待ってみたい。
posted by orr_dg at 02:40 | Comment(0) | Movie/Memo | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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