2019年08月25日

鉄道運転士の花束/天国列車におまえを乗せて

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オフィシャルサイト

激突してひしゃげたメメント・モリと丹念になめした鈍色のアパシーと、地政学上の鬼っ子セルビアがシャツとズボンのようにいちどきに身につけたそれとこれはまるで鉄道運転士の制服でもあるかのようで、これはイリヤ(ラザル・リストフスキー)からシーマ(ペータル・コラッチ)へその制服が受け継がれる儀式の物語。ここは死を拭い死に涙することが必ずしも正気の沙汰として歓迎される素振りともいえない世界で、どれだけ線路で人を轢いたとしても罪に問われることのない俺たちが人並みの正気を欲してしまっては、あの世に送った人たちに申し訳が立たなかろうよと、けっして死を軽く想うわけではないけれど、死に捉まらないためにはそれを足蹴にせざるを得ないのだという、夜寝る時にしまいこみ朝目が覚めた時に身につけるその制服こそがこの国を生き抜くための薄日差すあきらめと仄暗い知恵なのだという、監督がセルビアに捧げた愛と苦笑いの讃歌であったようにワタシは思えた。倫理や道徳ではものさしにならない、生きているということは死んでいないということだという確認は、それは人間の右肩上がりの活動を阻害するざわめきとして顕著に忌避されてきたのは間違いがなく、例えば昭和のブルータルが戦争の残滓としてあったことなど思い出してみれば、そこで生まれて育ったワタシがこの映画に感じる親しみと懐かしさの正体を知るのはとても自然で容易なのは言うまでもなく、ペシミズムの色としかいいようのないくすみと退色の緻密な色彩設計がそれら感傷とメランコリーに拍車をかける。ラザル・リストフスキーとミリャナ・カラノヴィッチが身を寄せ合う姿はまるで『アンダーグラウンド』の白日夢のよう。
posted by orr_dg at 23:49 | Comment(0) | Movie/Memo | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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