2019年05月10日

ザ・フォーリナー 復讐者/爆弾銃弾肉弾糾弾

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オフィシャルサイト

リーアム・ヘネシー(ピアース・ブロスナン)に揺さぶりをかけたクァン(ジャッキー・チェン)が、その後ヘネシー配下のチームにベルファストでの宿を急襲されるシーン、ヘネシーの事務所に仕掛けた挨拶代わりの手製爆弾の手際にクァンが何らかの殺傷スキルを持った者であることが観客には暗示されていて、となれば先を読んだクァンは既に宿をもぬけの殻にしているか、もしくは何らかのトラップで彼らを返り討ちにするのか、いずれにしろ完全にクァンが狩る側にまわったことを告げて次のシークエンスに移るものだと思っていたのである。ところが、居場所を探知されることなど想像もしていなかったクァンは襲撃に慌てふためき、熟練した近接戦闘の動きを見せつつも相応のダメージを受けて命からがら脱出することとなる。考えてみれば、ベトナム戦争での特殊部隊兵士としての往時から数十年の時を経ることで身体も神経も錆びついているのは当たり前だし、染みついた本能の残滓があるとしても命のやり取りをして生き残る最前線の感覚からはもはや程遠いのは言うまでもなく、そうしたクァンの背景をジャッキー・チェンという稀代のアクション・スターの夕暮れに重ねてみせることこそがこのキャスティングの狙いだったことがわかった瞬間、ジャッキー・チェンではないクァン・ノク・ミンという男の哀しい目や丸みを帯びた背中がスクリーンをみなぎるように支配し始めて、お仕着せとしてのジャッキー映画どころではない元IRAメンバーとベトナム戦争の元特殊部隊兵士が暴力に彩られた互いの過去に喰われていく様を、締め上げた緊張と寄る辺のない彩りで描いた身を切るようなアクション映画として成立させている。ヘネシーと1対1で対峙したクァンが、お前らが使った爆弾はセムッテクスか?と尋ね、そうだと返されると、あれは戦争の時にチェコ人がベトコンのために作った爆弾で、アメリカ人をたくさん殺したあの爆弾でIRAがおれの娘を殺すことになるなんてとんだ皮肉じゃないか、と問わず語りに独白するシーンは、アクションがまるで介在しないながら今作におけるジャッキー・チェンのハイライトといってもいいだろう。あくまで復讐するのはテロの実行犯であって、たとえ自分の生命を奪いに来る者であってもそれ以外の人間を殺すことはしないという枷に加えて、リタイアして錆びついた肉体と神経というハンディを背負うことでクァンのアクションには切迫したサスペンスが生じ、元英国特殊部隊兵士にしてヘネシーの甥ショーン・モリソン(ロリー・フレック・バーンズ)と森の中で人知れず繰り広げる近接格闘戦には、『ハンテッド』のトミー・リー・ジョーンズvsベニシオ・デル・トロ戦を想い出したりもした。さすがに「特捜班CI-5」の昔からイギリスの狭い室内で繰り広げられるアクションをハイスピードで立体的に組み立ててきたマーティン・キャンベルだけあって今作の流れるような手さばきは見事というしかないし、アクションにこめられたドラマの意図に対するジャッキー・チェンの嗅覚と、大義に喰われたヘネシーという男の野卑なメランコリーを燃やし尽くすピアース・ブロスナンの精密と、特にジャッキー・チェンという俳優の解釈については、どうして今まで誰もここに手を付けなかったのかという驚きもあって徹頭徹尾腑に落ち続け、そしてそれは静謐なうちに暗転したエンドクレジットでさらに決定的となるのである。お前が歌うんかい!
posted by orr_dg at 20:56 | Comment(0) | Movie/Memo | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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