2018年10月14日

リグレッション/泣くのが怖い

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オフィシャルサイト

※ネタを割っていますが、主演俳優の受難を愛でる物語なのでさほど問題ではないかと。

あんたたちのそういうところだよ、とまるで観客を嗜めでもするような終わり方にも不思議と腹が立たないのは、そこに至るブルース・ケナー(イーサン・ホーク)の倒けつ転びつする七転八倒をそれなりに愉しませてもらったからという理由が大であって、いささか潔癖症的な善意と正義の人ケナーがアンジェラ・グレイ(エマ・ワトソン)という若き毒婦にハニートラップまで繰り出されて翻弄されたあげく、絵に描いたようなパラノイアに囚われて行くさまをアレハンドロ・アメナーバルは不穏と不安と不条理のムードを総動員して追い込んでいくのである。とは言えミステリーとしてはやけにあっさりネタを割るカットがいきなりインサートされて拍子抜けしてしまうのだけれど、少し調子に乗ってイーサン・ホークをいたぶり過ぎたと監督は腰が引けたのだろうか、せっかくいい具合に心神喪失が上気しつつあるところだったし、ここからが彼の真骨頂と思えただけにその意気地のなさがいささか悔やまれるところではあったのだ。オチとしてはどちらに転んだとしてもそれなりに収束してしまう話であったことを思うと、やはり監督にはイーサン・ホークをどこまで蹴堕とすことができるかその深淵を覗かせて欲しかったし、セックスのオブセッション丸出しで淫夢に悶えるイーサン・ホークがけっこうなやる気をみせていただけに、突然正気に戻り事件を解決し始めるその姿には、話が違う!と憤ってみせたりもしたのである。というわけで、界隈の大御所感を醸し出しつつあり昨今からすれば、イーサン・ホークが半べそで疾走するこの2015年作品は貴重なフィルモグラフィーとなりそうな気もするので、彼のパセティックに焦がれる側の方々は現時点で東京1館、沖縄(!)1館というハードルの高さはあるにしろ取りこぼしのなきようにと言っておきたい。なかなか要領を得ないアンジェラの父ジョン(ダーヴィッド・デンシック)に苛ついたケナーが「帽子を取れ、いいからその帽子を取れ!」と八つ当たり的に激昂するシーンで、無表情のままおずおずと帽子をとったジョンの頭が、まるでこれが答えですとでも言うかのように落ち武者的な見事さで禿げ上がっていて、しかしそれが意味するところなどもちろんあるはずもないシュールな一発ギャグにはケナーならずとも攪乱されること必至で、ああ今日はもうこれで良しとしようと思わせる屈指の名シーンとなったのだった。そういうチャームの映画であることも念のため付け加えておきたい。
posted by orr_dg at 02:03 | Comment(0) | Movie/Memo | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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