2018年08月05日

ウインド・リバー/赤い雪のブルース

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オフィシャルサイト

吸いこんだ空気で肺すら凍る酷寒の中を6マイル走り続けなければならなかったのもその6マイルを走り続けることができたのも、ウインド・リバーに生まれ落ちたナタリー(ケルシー・アスビル)の血と肉が呼び寄せた運命に他ならず、しかしその運命を決定しているのは、おまえたちはここからどこへも行くことはできないというアメリカのかけた呪いであり、動き続けることで自由を獲得してきた彼の国にあってそれはほとんど死さえ意味するに違いなく、そんな風にして生まれながらに死んでいるものたちの土地で繰り広げられる殺戮は、それは例えば時折吹き荒れる吹雪のような自然のひと触れとしてやってくるに過ぎない。したがって、この地に生きることを決めたコリー(ジェレミー・レナー)は死に対して従順であることを受け入れていて、その見返りとして彼にいっさいの衒いも迷いもない引き金を与えている。病院のベッドでジェーン(エリザベス・オルセン)の流す涙は、自分の属する「アメリカ」がかけた呪いに殺されかけた衝撃と罪深さが、それまで彼女の与り知ることのなかった自身の内部を激することでこぼれ落ちた感情の滴なのだろう。コリーがジェーンに「きみはよくやった」と言う時、それはよく生き延びたというよりはよく殺したという言外を持つにちがいなく、定型であれば反目し合う内に理解と愛情が育つ関係になるところがコリーは端からジェーンにバックアップの手を差し伸べていて、そのメンターとしての役割は『ボーダーライン』におけるケイトとアレハンドロの関係を容易に想起させるわけで、してみれば、テイラー・シェリダンが囚われているのは抹殺された現実の告発というよりも、境界を超えた者に訪れる永遠の変質であるように思うのである。真夜中に強装弾を仕込むコリーのところに、起きてきた息子のケイシーが近づいて悪い夢を見たんだと小さく告げるシーン、自分の膝の上にケイシーをのせて束の間それぞれの静かな屈託に浸る時間はこの土地に生きるもの同士が呪いの感応を確認する儀式のようでもあり、しかしそれを悲劇というよりは静謐な諦念と彩る筆使いで描くテイラー・シェリダンが幻視するのはアメリカの原罪を解剖するメスさばきそのものなのだろうと、昏れていくアメリカの寄る辺ない語り部があらたに生まれたことを心の底から喜んでいる。
posted by orr_dg at 16:06 | Comment(1) | Movie/Memo | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつも更新を楽しみしています。
Posted by Onono comachi at 2018年08月08日 21:30
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