2017年04月19日

T2 トレインスポッティング/未来を裏切れ

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オフィシャルサイト

インサートされるクラッシュは「ハマースミス宮殿の白人」だったけれど、この映画の夕暮れのような泣き笑いと突っぱりを慰めようとワタシの頭の中で流れていたのは「レベル・ワルツ」だったのである。俺たちは敗れてしまったけれど、かつて反乱のワルツだった調べはまだ聴こえている、いまはそれに合わせて踊っていようか、俺たちは敗れてしまったけれど、とジョー・ストラマーが切々と諭すように反逆の終焉を歌っていて、センチメンタルもメランコリーもすべて受け入れては家に帰れと解放してくれる。ではいったい家に帰った後で何をすればいいのか。レントンが躊躇も呵責もなく裏切って捨てたベグビーは彼なりの通過儀礼を今さらにして果たしてはみせたし、レントンにとってつねに庇護すべき対象だったスパッドは誰の助けも借りずに自分の足で立つ世界を見つけている。サイモンはとにもかくにもひとりきりでの敗け方と転がり方を知る男である。T1がレントンのナレーションで推移する物語であったことを思い出してみた時、ではその語り部はいったい何をどう敗けたのか。生家に戻ったレントンが例の壁紙もそのままの「子供部屋」に荷物を解き、40を超えて親と同居する日々に果たして沈むのか浮かぶのか、例のレコードの例の曲に針を落としてはやがて来るプライヴェートヘルに身震いするかのようにのけぞるラストの、まだお前は正式に敗けてすらいないよなという誰かの断罪は、例の曲がレントンをどこに連れ戻すのかを想い出してみた時に、果たしてそれはお前の20年をチャラにしてやってもいいぜ、なのかそれとも、お前の20年は無意味で空っぽでドブに捨てられたようなもんだぜ、という通告のいずれであったのか、どちらにしろ冷たい汗が背中を伝い続ける無限ループの寄る辺なさにT1の快哉は見当たらなかったのである。オレみたいな人間は目の前の人生を素手でつかみ取るしかないんだよ!とベグビーが爆発させる屈託はそのまま他の3人の胸の内でもあったはずで、したがってベグビーの病的とも言える怒りの大部分は自分がつかみとるはずであったそれをレントンに先回りされた悔しさが培養したには違いないのだけれど、スパッドが書いた物語の「ベグビーに良心が痛むことはなかった」のくだりをじっと読むベグビーのカットを添えることによって、ダニー・ボイルはほんの一瞬ベグビーの肩を持ったように思うのだ。だからこそレントン首吊りのシーンに至るむき出しの怒鳴り合いと、その後でレントンに引導を渡すべく抱きしめるベグビーの目つきがひとときソシオパスから自由になっていたように映るのではなかろうか。そんな色づけに思わず気を取られてしまうくらいダニー・ボイルはこの映画を醒めた責任と代償で律していて、しかしそれは道徳とか倫理とか言うよりは、かつてサイコロの目にスリルを見ては一喜一憂していた日々も、人生に流れる時間の中でその出目は次第に均質へと収束してしまうこの世界のことわりに対してであって、T1を様々にフラッシュバックさせてはそれを現在に対照させつつバランスシートをつきつけることで、観客にとっての20年までも総括するよう促していたようにすら思うのだ。レントンがヴェロニカ相手にまくしたてる長口上はそのインスタントな総括でもあるのだけれど、その先に待ち構えているのは、さて、お前は残り少ない未来に何を選ぶ?という逃れられない問いかけなのである。そして、いまだ答えを持たないレントンと他の3人との決定的な違いが彼をあの「子供部屋」に閉じ込めてしまうのではなかろうか。気がつけばワタシも流れ弾をくらっていた。


選べ、ブランド物の下着を。むなしくも愛の復活を願って。
バッグを選べ。ハイヒールを選べ。
カシミヤを選んで、ニセの幸せを感じろ。
過労死の女が作ったスマホを選び、
劣悪な工場で作られた上着に突っ込め。
フェイスブックやツイッター、インスタグラムを選び、
赤の他人に胆汁を吐き散らせ。
プロフ更新を選び、“誰か見て”と、
朝メシの中身を世界中に教えろ。
昔の恋人を検索し、自分の方が若いと信じ込め。
初オナニーから死まで、全部投稿しろ。
人の交流は、今や単なるデータ。
世界のニュースより、セレブの整形情報。
異論を排斥。
レイプを嘲笑。リベンジポルノ。
絶えぬ女性蔑視。
9.11はデマ。事実ならユダヤ人のせい。
非正規雇用と長時間通勤。
労働条件は悪化の一途。
子供を産んで後悔しろ。
あげくの果て、誰かの部屋で精製された、
粗悪なヤクで苦痛を紛らわせろ。
約束を果たさず、人生を後悔しろ。
過ちから学ぶな。
過去の繰り返しをただ眺め、
手にしたもので妥協しろ。
願ったものは高望み。不遇でも虚勢を張れ。
失意を選べ。愛する者を失え。
彼らと共に自分の心も死ぬ。
ある日気づくと、
少しずつ死んでた心は空っぽの抜け殻になってる。
未来を選べ。
posted by orr_dg at 20:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | Movie/Memo | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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