2017年02月27日

ラ・ラ・ランド/溺れる者から藁をもつかむ

La_La_Land_1.jpg
オフィシャルサイト

新作で真っ向からミュージカルに取り組んでいるとかいったニュースを知って、やはり『セッション』の異形は監督にとってのプライマス・スクリームであったのか、さすがにあそこまで吐き出せばさぞかし憑き物も落ちたことだろう、でなければ人工の奇形たるミュージカルに自身を収めることなどできなかろうよ、などと思い、つらつらとカラフルなスチルなど目にする内、ああこれは正面切って『ワン・フロム・ザ・ハート』の復讐でもしてくれるのかなと、スターダムを駆け上がっていく監督の野心ときらめきを訳知り顔で眺めていたのである。そして結論から言うと、憑き物は落ちていないどころか、憑き物を抱えて彷徨するものたちの気高さとそれゆえの哀しみを世界に向けて謳い上げるために監督はミュージカルというフォーマットを選んだに過ぎなかったわけで、それでも気づかぬ阿呆どもにむけて「少しの狂気が新しい色を見せてくれる」「イカれてるように見えたとしても、どうか破れた心に乾杯を」という歌詞まで発注した上で、それをミア(エマ・ストーン)覚醒のシーンで歌わせたのである。したがってワタシにとってこの映画のピークは、夢醒めぬ阿呆ども(The Fools Who Dream)とサブタイトルのついたオーディション・ソングをミアが切々と歌い上げるシーンに他ならず、何かもうクロスロードで悪魔に出くわした気分ですらあったのである。『セッション』を観た限りでは、白人は白人ゆえにジャズを越境できないというナット・ヘントフ的コンプレックスが反逆の動機になっているのかと思っていたのだけれど、寄らば斬るぞとにじり寄る刃の先は今作において非原理主義の黒人ミュージシャンにまで向けられ、そこでミアのオーディション・ソングを聴けば瞭然なように、デイミアン・チャゼルにとって世界はセーヌ・ダイヴァーのために存在するわけで、その野心の確信と達成においてすべての犠牲は有効とされるのである。したがって、あくまでセーヌ・ダイヴァーの代弁者にすぎないセバスチャン(ライアン・ゴズリング)の役割はミアの礎となることであって、ラストで提示されるあちらであろうとこちらであろうとセバスチャン自身はミアのようにダイヴすることが許されていないわけで、最後に彼がミアに送る微かな笑みは、君は俺の屍を乗り越えていけというサインにしか見えなかったのだ。チャゼルにとっては真理の追究者=セーヌ・ダイヴァーであり、そこへ向かうことの叶わない者はいずれ足蹴にされるだろうという冷徹で酷薄な認識を今作において遂に確認した時、何のことはない、フレッチャーこそがデイミアン・チャゼルであったことに気づくのである。そしてもう一つ薄々気づくのは、チャゼルにとって真のダイヴァーとは深く潜りすぎて時には戻ってくることすら叶わないダイヴァーであって、例えばチェット・ベイカーは溺れたに過ぎず、マイルス・デイヴィスはその知性で泳ぎ切ってしまったという理由で彼のリストには入らないだろうということである。この映画ですら、ミアと彼女の狂言回しとしてのセバスチャン以外の登場人物たちに見られる最低限のつじつまのような造型は、チャゼルが人間の在り方そのものにはさほど興味を持っていないだろうこともうかがえて、それは要するに目的のためには手段を選ぶことが一切ないということで、ジャズの葛藤を描くになぜビッグバンドのしかも競技ジャズ?、ジャズ原理主義の救済をなぜミュージカルスタイルで?といったどこか不可思議なジャズのツイストもその紛うことなき反映なのだろう。そうやって生まれる異物ゆえ常にジャンルから蹴り出され続けるにも関わらず、気がつけばその埒外を賑わせているのは放蕩息子のダイナミズムゆえなのか、次作にニール・アームストロングの伝記映画を選び、人間をひたすら描き切るしかないこのジャンルの足かせを自ら嵌めに行ったある種の変態性が、おそらくは『ライトスタッフ』あたりをどんな風に食い尽くすつもりなのか、しかもそこにまたしてもジャズの変奏はあるのか、新種の奇才の動向を気にせずにはいられないのも確かなのである。しかしこれだけセバスチャンにジャズ警察を演じさせておきながら、肝心のジャズについてはホーギー・カーマイケルの座った椅子しか記憶に残っていないというのは普通であれば何らかの皮肉として描かれるわけで、そのあたりの意識と無意識のさじ加減で尻尾を掴ませないあたりほんとうに食えない監督というしかなく、そもそもジャズですら手段なのではなかろうかという気すらし始めたよ。
posted by orr_dg at 17:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | Movie/Memo | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック