2015年06月23日

マッドマックス 怒りのデス・ロード/電光石火に銀の霧

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オフィシャルサイト

スタックしたウォー・タンクをリカバリーすべく、それが実際としては何の役に立つはずもないことを知りながら、マックス(トム・ハーディ)はワイヤーをフックした木を倒すまいとしがみつきフュリオサ(シャーリーズ・セロン)は全体重をウォー・タンクに押し込むことで、2人の物言わぬ感情は地平線に拮抗し、マックスの右肩を銃座にフュリオサがピースメーカーのライトを狙撃して以降、スタックリカバリーの後でたったひとり武器将軍とピースメーカーを屠りに向かったマックスの帰還を迎えるフュリオサの、まだ私は誰かを信じることができている!という驚きと安堵と慈愛に満ちた表情の傷だらけで沈黙するロマンスは、我が身を苛む亡霊にその身を差し出すためだけに生きのびてきたマックスと略奪された人生の奪還に我が身を担保としたフュリオサが、それを封印することで正気を保ってきた希望を互いの中に見出すことを許した瞬間であったし、この青い夜が映画の中盤で背骨となったからこそ、ニュークス(ニコラス・ホルト)を含むウォー・タンクの面々は闘いの大義をそれぞれの中心に据えて最後まで立ち続けることができたのではなかろうか。アクションシーンについての懸念は予告編をみた段階でとっくに払拭されていたから、マックスとフュリオサがいったいどのように共鳴し共闘していくのか、そしてともすればアクション映画のエンジンブレーキとなりがちなロマンスをどう突破しているのか、それが手慰みと済まされていることもある程度覚悟していたものだから、むしろその「わたし」だけの世界に「あなた」を存在させることによるワールド・イズ・マインの殲滅というテーマをガソリンとしたV8の爆音に、身構える間もないままあっけなく吹っ飛ばされていたのである。したがって英雄譚を綴る役割はマックスではなくフュリオサに与えられ、かつて父として娘を守ることのできなかったマックスは家父長制のはぐれ者となり、ウォー・タンクの母系制の中でフュリオサの贖罪(redemption)に身を委ねることによりその再生が促されるわけで、ニュークスの場合はそれに加えて父殺しによる露骨な通過儀礼がその精神の再生を象徴しているし、マックスをできるだけそれと知られぬように中心から外すための、あっけなく敵につかまり、脱出に失敗し、車にくくりつけられ、僥倖による解放と、マスクをはずす悪戦苦闘、といった手続きの周到さにジョージ・ミラーによるこの主題への確信がうかがえるように思える。と書き連ねてはみたものの、この映画を語ることの野暮と清々しい無力感は、語られるべきことはすべて描かれて観れば分かるとしかいいようがないからで、行動(アクション)と思想が完璧にジャストフィットした瞬間、ワタシは手持ちのピースを探りそれらを繋げる道筋を探る行為を完全に免除され、その忘我を未知の体験として震えてみたりもするのだけれど、本来映画とはそのための表現手段であったことを今初めて知らされたかのように驚愕する阿呆をも特赦する神々しさに、V8を称えよ!としかワタシは応えることができそうもないのである。ところでフュリオサの言うredemptionに劇中では「生まれ変わる」とかそういった字幕があてられていたように思うけれど、直前でバックシートの5人の女性たちについてのマックスに対する ”They are looking for hope“ という答えと対比させた場合、ややポジティヴに過ぎるような気がしていて、およそ20年前にさらわれてきてバックシートの彼女たちと同様「子産み女」としての境遇にあったフュリオサが、大隊長としての地位につくまでにはイモータン・ジョーの独裁に全面的な服従をする必要があったはずで、その忠誠の証しとして「子産み女」予備軍の確保を託された事は想像に難くないし、となればその地位を利用しての脱走を図るための犠牲となった幾多の彼女たちに対する贖いの意味がredemptionには込められていたことを思えばこそ、もちろん罪を贖うことで新たな再生を願うという意味では「生まれ変わる」も間違いではないかもしれないけれど、自身の再生をただ願うにしてはあのredemptionには苦々しい唾棄が込められていたように思えてならないのである。フュリオサの行動原理を為すシーンだっただけに、その点についてのみ落としどころがもやもやとしてしまっている。
posted by orr_dg at 02:11 | Comment(2) | TrackBack(0) | Movie/Memo | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「レデンプション」の部分は字幕版・吹替版共に「過去の清算」で、「生まれ変わり」と字幕がふってあったのは確か劇場版予告だったと思います。細かい事ですみません。アクションを期待して見に行ったら、余りに濃密な脚本ぶりにいまだに酔いが冷めない思いです。
Posted by V8 at 2015年07月13日 06:06
V8さん、こんにちわ

ご指摘ありがとうございました!
阿呆のように何度も繰り返し予告編を観たせいで、そちらが刷り込まれてしまったようです…。
「過去の清算」であればそれなりに彼女の背景が反映されていますね。
ワタシとしては、自罰のニュアンスや映画のトーンを考慮すると「罪滅ぼしよ」がしっくりくるかなあと、その後考えてみたりもしました。
Posted by at 2015年07月13日 12:24
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