2012年08月03日

ダークナイト ライジング/彼、めちゃくちゃラッキーよね

ダークナイト ライジング
オフィシャルサイト

※ネタバレ全開なので観賞済の方以外スルー推奨

「オレが何者であるかは重要ではない、重要なのはプランだ」冒頭のシークエンスでベインが吐き捨てたこのセリフが映画の舵となっていたことがナイフ片手のミランダによる独白で明らかになった瞬間、まさに開いた口がふさがらないブルース・ウェインの胸中をよぎったのは「ああオレは何て女運が悪いんだ、それにしてもベインの野郎が夫婦漫才の片棒かついでたとはな。革命だ何だってあれだけたいそうなご託を並べたわりには全部ボケだったなんて茶番が過ぎるぜ。しかしまあ、まわりくどいことしたもんだよな影の同盟のみなさんは。『4デイズ』とか観てないのかね、あいつはたった独りで合衆国追い込んだぜ。しかしなあ、場合によっちゃ華々しく散っちゃおうかなあなんて思ったりもしたけど、こんな間抜けなネタのオチに手を貸してやるのは何かムカつくんだよな、よし決めた、もしここを切り抜けられたらぜったい生き延びてやることにしよう、こんなバカどものために命くれてやるのはまっぴらだぜ、それにしてもミランダのツッコミきつすぎるわ、いったい今オレの脇腹どうなってんだろ、つうかベイン、何してんだよ、ミランダは殺すなっていったよな、何だあれか、オレがミランダと寝たからジェラシーか?それともさっきミランダにマスク撫でられて子犬みたいに潤んだ目しちゃったのが恥ずかしいのか?それともてめえのアナーキストとしての矜恃がこの小芝居に耐えられなくなったのか?いいかげんにしろベイン、だから手え出すなってミランダに言われただろうが。くそうこのまま死んじゃうのか、こんなマスクしてるから余計に苦しいわ、こんなとこで死んだらジョーカーに申し訳が立たないな、けど悪いな、こんな筋肉バカに殺されることになりそうだよ. . . . ん、ウチの嫁キター!!」という悔恨と自嘲がもたらした再生への決意により、ここに至ってブルース・ウェインを蝕んできた喪失の恐怖と死への渇望はようやく葬られることになるのである。というわけで、冒頭でベインが言ったのが大義や理念でなく、あくまでもプランであったことの理由がミランダからご丁寧に説明されはするわけだけれども、蜂起せよと煽ったゴッサムの非抑圧者(とされる囚人)までも結局は焼き尽くすつもりだったのかという疑問をそれはミランダへの忠誠に収束されるものだからという解答で納得させるには、ミランダのとってつけたようなファザーコンプレックスによる告白はあまりに薄っぺらいし、警官隊とベイン隊が激突する時にフォーリー副本部長が叫んだのが「この街に警察は一つだけだ!」であって「街を市民の手に取り戻せ!」ではなかったことで決定的なように、下層からの転覆や革命の構図を描いてサスペンスを煽りながら終始ゴッサムの市民は不在なままで、単に法治と統治の二つの体制が見せかけとしての小競り合いをする話に過ぎなかったのが、ダークナイト的な二項対立による禅問答を待ちわびた場合の致命的な瑕疵であったように思う。思うんだけど、確かにそう思いはするのだけれど、すべてがフィクスにも思えるほど愚直なまでにカメラの“神の目”視点に頼らずそれを視ている人間の正視の視点にこだわるノーランの意固地によって、主役3人がマスクで顔を覆ってしまっているにもかかわらず感情と情緒が常にしたたるようなカットを獲得していたことと、そうやって獲得した火薬のようなそれをばかげたと言ってもいい爆発に惜しげもなく投げ込んでいたこともあってまとわりついてくる異様なガッツと熱量のおかげで無造作に切って捨てることをためらわせ続ける荒唐無稽な馬力は絶対に賞賛されるべきだと思うし、特にタイムサスペンスが色濃くなって以降のゴージャスな『ニューヨーク1997』的にドシャメシャな推進力は、エピローグでのチープぎりぎりのクリシェも含め愛すべきヤリ逃げとしてここまでケツをまくったノーランを褒めてやるしかないではないかと思っている。そして何よりチーム・ダークナイトの面々を誰も喪わなかったことで差した一条の光の明るさこそがヒース・レジャーへの鎮魂だと思えば、終わりよければ全て良しという言葉がこれくらいふさわしい幕引きもなかったのではないかと何より今は安堵しているのである。最後に言っておくとトリロジー通じてのMVPは、あの過剰と抑制のバランスがノーラン・トリロジーのシンボルであるという点でタンブラーだと思っていて、それはもうMOMAに収蔵されてもいいくらいかと。
posted by orr_dg at 21:40 | Comment(0) | TrackBack(1) | Movie/Memo | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック

ダークナイト ライジング/それでもきっと陽はまた昇る
Excerpt: ダークナイト ライジングThe Dark Knight Rises/監督:クリストファー・ノーラン/2012年/アメリカ クリストファー・ノーラン監督の映画については、もう、他の方に任せます。 ..
Weblog: 映画感想 * FRAGILE
Tracked: 2012-08-06 09:24
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。