2012年04月09日

スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜/尻馬に乗って勝ち馬の目を抜け!

スーパー・チューズデー
オフィシャルサイト

常に一歩引いたところでカウンターとして登場していたモリス(ジョージ・クルーニー)が唯一メインで語り出す妻との車中シーン、この後の展開を思えば妻と二人きりのこの時間ですらモリスは良識と誠実のイメージを演じきっていたわけで、妻をだませないような男にアメリカと世界を丸め込むことなどできるはずがないという、これもまたプレイヤーの資格であるというあけすけな物言いのせいか、手を組めば勝利が確約されるのを承知で信条としてトンプソンとは組まないと断言していながら、スキャンダルを楯にとられるやいなやトンプソンになびていくモリスへの嫌悪感よりは、むしろこのゲームにおいてはスティーヴン(ライアン・ゴズリング)のイノセンスが厄介な不確定要素として描かれている。イノセンスは一度なくしてみることで初めて有効にコントロールできるのだ、それができない人間を我々は信用できないという通過儀礼と幻想の終わりを求めることが、あなた方のリーダー達がうごめく界隈におけるモラルのようだよという突きつけをジョージ・クルーニーはしていて、邦題サブタイトルの“正義”の部分を“イノセンス”に変えてみればなおいっそうしっくりくるような物言いについてもし訊ねてみれば、それがさほど目新しくもなくいささか手垢のついた物言いなのは知ってるけれどそれをスイッチにすると映画がグルーヴして面白いからやるのさ、まあ『候補者ビル・マッケイ』のアップデート版みたいなもんだよ、という架空の言葉を引き出すのにさほど抵抗を感じることもない。となれば妙味はグルーヴマシーンのステップということになるわけで両陣営の太っちょ2人が圧巻なのは言うまでもなく、ポール・ジアマッティの高血圧的なキレで押しまくるハイパーアクティブと、フィリップ・シーモア・ホフマンの全身がため息で出来ているような低血圧でのしかかる不機嫌との躁鬱的な対比が絶妙で、しかもこの2人をスティーヴンによる父殺しとして捧げるという贅沢にはもううっとりである。そうしたわけで今作でのライアン・ゴズリングについては、黙っていても周囲の面々がフレームの空気を押しつぶしていくその爆発に乗っていけばいいという点で、彼自身は神輿にかつがれているように映るのが役得なのかどうなのか微妙な瞬間はあるにしても、のちのドライバーである、とでも呟いてみたくなる暗闇で再構成された相貌を過不足なく貼りつけてはいて、でもやはりポール・ジアマッティとの対峙シーンなどみるとまだまだこてんぱんにされる側だなあとは思ってしまう。モリー(エヴァン・レイチェルウッド)については、スティーヴンに身を寄せる意図を今ひとつ判然とさせないのがハニートラップ的なサスペンスの含みだったのかどうなのか、結局はフックとして機能させるための犠牲者として記号的に描かれたようにしか映らない彼女の彫り込みの浅さが若干映画をもたつかせたように思うから、ならばスティーヴン同様に高みを狙って飛ぼうとしたあげく墜ちた者として描いた方が物語になお爪を立てられたように思う。監督としてのジョージ・クルーニーは、いわゆる社会派的な題材を扱ってもシドニー・ルメットの乾いた告発よりはシドニー・ポラックの情緒的なサスペンシーに振れていて、そうしたスタンスによってか今作でも特定の何かを追いつめようとはしてるわけではないからいったん映画館を出てしまえばどこまでも後を追いかけてくるような映画ではないけれど、こうして社会を実効するものとコミットした息づかいを娯楽として成立させ得る映画は最近本当に見かけなくなっているから、かつてそうした映画の洗礼をうけたクルーニー自身が公言しているように『フィクサー』が『パララックス・ビュー』への、『グッドナイト・グッドラック』が『大統領の陰謀』へのオマージュを込めた気持ちは非常によく分かるし、集客のむずかしいポリティカル・サスペンスにこれだけのキャストを集められるのもクルーニーが多少なりとも大きな声を出せるポジションを獲得した人間だからで、ならば次は『コンドル』あたりのオマージュで1本仕上げてくれると尻尾振って喜ぶはずなので是非ともお願いしたい。
posted by orr_dg at 20:19 | Comment(0) | TrackBack(1) | Movie/Memo | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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