2012年01月10日

哀しき獣/返り討ちのブルー

哀しき獣
オフィシャルサイト

不義と不信に苛まれた男たちの血で血を洗う殲滅戦の虚しさを骨子に焼き付けたかったはずが、明らかにされる真の理由は命を賭すに値するとは到底思えないちんけでくだらない子供じみた見栄と意地がまき散らしたに過ぎず、だから面白いんじゃないかと言われればまあそうなんだけど、その“面白い”が緊張と緩和によるコメディラインによるものなのか、トラジコメディの振幅が滲ませる陰影なのかワタシは少々拾いきれなかった気がする。前者についてはミョン社長(キム・ユンソク)、後者については主人公グナム(ハ・ジョンウ)が背負って立つわけだけど、ハッキリ言ってミョン社長のターミネーター的狂犬が映画を喰いつぶしてしまったせいで、それを同じ土俵で迎え撃たなければならないグナムから掃き溜めの屈託や哀しみが吹き飛ばされてしまっていて、彼に貼りつけるつもりのメランコリーがペラッペラになって映画のチャームがすべてミョン社長に宿ってしまったのものだから、ミョン社長の昇天後に慌ててグナムにフォーカスしようとしたところで時既に遅く、グナムの嫁探しというサスペンスラインを中盤で少々撹乱し過ぎたこともあってラストのファンタジックなニヒルが映画を包み込むには至らなかったように思う。それとお馴染みの韓国警察新喜劇については、ちょっとした箸休めとしてなら苦笑いで済むところがこういう風に主人公の局面打開を助けるために使われてしまうと、今ひとつ真意を測りかねて身を乗り出せなくなってしまうのも否めない気がする。とは言えこの映画をある種のカオスに追い込んだ張本人であるミョン社長の勇姿だけ観ていても映画の元は取れてしまうわけで、なにしろ実写化された「バクネヤング」を初めて目にした気分なものだからミョン社長が出てくるとワクワクして仕方がないのである。自我に題目がない、本能と理性が分離していない、現象以外の死をイメージしていない、つまり死に意味を見出さない、死は肉体を壊せばやって来るもので魂や精神は関係ない、というか魂や精神を知らない。そんな風に自由を発露する人間がいかにチャーミングか、それを確認するためだけでもこの映画を観る意義があるし、壊れるように死んでいくその様はやはり「バクネヤング」のそれと同じく死だけが平等でフェアだという事実のとりつくしまのなさを体現していて震える。やたらと評判の良かった『チェイサー』を未見なものだからまずそちらを観ようと思っていたのが新宿で手持ちぶさたになったものだからついふらふらと観てしまって、正直いって140分かけて語るような物語ではないし、映画が暖まるにつれて全員が全員1980年までの渡瀬恒彦化していくような確信犯的でたらめを働いていたりするせいでこちらも腰が落ち着かないことこの上ないのだけれど、それを補って余りある破壊の精神を見つけて愛することは充分可能なように思えるので、特に今さら「バクネヤング」といった字面に反応してしまう奇特な方は是非劇場に足を運ぶべきだと思う。全勝どころか優勝もおぼつかない9勝6敗だけど、9勝の勝ちっぷりだけで大笑いできるはずである。
posted by orr_dg at 22:37 | Comment(0) | TrackBack(1) | Movie/Memo | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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