2011年05月11日

サトリ/ドン・ウィンズロウ

4152092084サトリ(上) (ハヤカワ・ノヴェルズ)
ドン・ウィンズロウ 黒原敏行
早川書房 2011-04-21

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4152092092サトリ(下) (ハヤカワ・ノヴェルズ)
ドン・ウィンズロウ 黒原敏行
早川書房 2011-04-21

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冒頭、茶会に芸者が居てしかもホステスとして振る舞っている描写で、ああトレヴェニアンならこういう脇の甘さは絶対見せないのに…と早くも萎える。しかも巻頭の人物紹介ではニコライ・ヘルを“日本人の心を持つ男”と称していて何だか間抜けなキャプションだなあと思った矢先だったのでなおさらだし、ちなみに『シブミ』では“フリーランスの暗殺者”である。ところで先に肝心の話をしてしまうと、この本は『シブミ』を読んでいないと全く意味を持たないように思う。『シブミ』を未読でも単独の作品として愉しめる、など言った惹句は目にするだろうけれど無理である。この、ニール・ケアリー・シリーズを閉じて以降のやんちゃで達者な筆使い(『犬の力』は主戦ではないよ)による冒険譚を読んで、ウィンズロウの新作への期待がぷすぷすと不完全に燻ったとしたら、それは『犬の力』に引きずられた挙げ句ではなく、あらかじめ『シブミ』を耽読した上での曖昧で微妙な胸の内となるのが正しい。黒原敏行氏があとがきで書かれているように、ニール・ケアリー・シリーズと『シブミ』の共通項というのは確かにあるし、特に第二作『仏陀の鏡への道』でニールを中国に放り込んでイニシエーションを果たすやり口はあまりにも見事だったから、ウィンズロウにこの企画を持ち込んだ編集者は慧眼であるとは思うのだけれど、問題なのはウィンズロウがもうあの頃のニール・ケアリーの目で物語を書けなくなってしまっていることで、それはテクニックというよりは、ウィンズロウがニールと共に成長することで暗い目つきと屈託を脱ぎ捨ててしまっているからに他ならず、したがってここにあるのは青春を焦がす刹那というよりはその無邪気な発露でしかないような気がするものだから、どうしてもトレヴェニアンの叙情を湛えた物語に埋め込むことができないのである。というわけで、まずは『シブミ』を読まないことには正しい落胆は得られないと思うし、『サトリ』を読むにあたって20数年ぶりに再読してみれば、30年以上も前の携帯もネットも前提にない時代に書かれた本としての鮮度と説得力はいまだに驚異的だし西洋と東洋の比較文化論としても秀逸で素晴らしい読書体験となること請け合いなので未読の方は是非。それと、今作の腰の軽い感じは無理矢理水増しして上下巻にした余白だらけの版面によるところも大きい気がして、これは色気を出したハヤカワの明らかな失策だと思う。こういう足元を見るようなやり口は本当に鼻白む。

4150412340シブミ〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)
トレヴェニアン 菊池 光
早川書房 2011-03-10

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4150412359シブミ〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)
トレヴェニアン Trevanian
早川書房 2011-03

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posted by orr_dg at 21:59 | Comment(2) | TrackBack(0) | Book | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつも楽しみに拝読させて頂いております。
この『サトリ』、ウィンズロウファンとして楽しみに発売を待ち、『シブミ』も浅学がゆえ未読だったので今回初めて読んで堪能した後に、いそいそと本編を読み始めました。
冒頭でいきなりシラけ、後は今ひとつノレないまま、リーダビリティが高いにも関わらず最後までモヤモヤした気持ちで読み終えました。
見回すと持ち上げる評価ばかりが目について、読み方を誤ったか、と不安な気持ちになっていましたが、こちらを読んで少し胸をなで下ろしました(笑。
そしてあの頃のニール・ケアリー・シリーズの輝きと同じものを今のウィンズロウに求めるのは酷な話なのだな、ということもサトらせて頂きました。同感です。
もちろん、手練れの書き手として今後も追っていきたいとは思ってますが。
Posted by eleking at 2011年05月12日 09:06
elekingさん、こんにちわ
ウィンズロウらしいケレンを楽しもうと思えば楽しめるのですが、本家が本家ですからここは正直に落胆していいんだと思います
ワタシにとってのウィンズロウはやはりニール・ケアリー・シリーズの初期三部作でありまして、作家にとっては鬱陶しい読者なのだと思いますが、それも作家が背負うべき宿命なのでしょうと気楽に突き放しておきます
Posted by オア at 2011年05月12日 12:04
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