これ、春先に出た時から買おう買おうと思ってたのがずっと後回しになってたところへ、今回の第18回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞というニュースで思い出したので遅まきながら購入。人名を含めた各種作品の膨大な固有名詞に溢れてたりはするので、他人の日記を覗き見る窃視的な楽しみなんかはそれなりにあるにしても、やはりこれはどん詰まった屈託を道連れにしたある種の無頼とも言える日々の記録であって、音の震えや映像の光がソナーのように一瞬浮かび上がらせた輪郭を頼りに自分を確かめはするものの、その自分に辟易してまた放り出す自家撞着の筋をもって高橋源一郎はこれは文学だと決めつけたということなのかな。ちなみにカタログ/ガイドとしては無愛想でほとんど役に立たないし、そもそもこれが有効となる人達はこういう本を読む日常にいないでしょ、おそらく。
一つ歯車がずれていたらこの本の出版はおろか関係者全員のキャリアがここで終わっていてもおかしくなかった危険な旅の記録。84才の老人を熱帯雨林でカヌーに乗せて炎天下の川面を半日近く上り続けるスケジュールを3日も続けるなんて、どう考えても正気の沙汰じゃないでしょ。しかもヘリコプター使ったら40分の距離だったっていう笑えないオチまであるし。そんなわけで、全4部構成ながら第3部「水木しげる生涯最悪の死闘」第4部「水木大先生の回復をお祈りして」というタイトルから分かるように、水木しげるの魂の源泉をニューギニアの深奥に見つけるという旅のコンセプトが見事に吹っ飛んでるのが無責任で悪いけどとても面白くて、重度の熱中症による高熱と痙攣で譫妄状態に陥りながらも、夜が明ければ「おとうちゃんがおかしくなったとき、写真は撮ったのか。あれは悪霊にとり憑かれたんだと思う。そうだとすればめったにない体験なんだよ」と同行の次女を詰問する水木大先生が素晴らしすぎる渾身決死のドキュメント。店頭のバナナの房からやおら1本もぎとって勝手に試食されたあげく、これはまずいから買わないと言いはなって店員とトラブったりとか、いろいろと心温まるエピソードも満載なので信奉者は当然マストで買い。
前作「逸脱者」での逸脱などという言葉では生やさしすぎる破壊ぶりというか、それまでの3作で築いてきた世界を全てご破算にした後遺症はさすがにルッカにとっても堪えたようで、結局そのリハビリにまるまる一作を充てることになった待望の新作。とはいえ、実は今作まで含めてようやく「逸脱者」が完結するといった内容なので、シリーズ・ビギナーには全くこれっぽちもお薦めできないのがなんとももどかしい。ボディガードという枷を外したことでフィールドは広がりはしたものの、紙一重でかわして逆襲する守護者の真髄はまだまだ健在だし、アティカスの脅迫観念的ストイックにもますます磨きがかかっているので、ファンにとってはこうしてきちんと落とし前をつけてくれたことはとてもありがたくはあるんだけどね。映画でいえばジェイソン・ボーン・シリーズに通じるタイトで内圧の高いアクションと、徹底してストイックでありながら結局は“情”がエンジンとなるハードボイルドのケレンにあふれたシリーズなので、未読の方はまずは「守護者(キーパー)」を手にとってもらえれば楽しみが一つ確実に増えると思うのでぜひ。ちなみに、あとがきによれば次作では“彼女”にまた会えるらしくて、これはちょっとばかりうれしい知らせ。
posted by orr_dg at 01:20
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