2008年07月04日

ザ・ロード/コーマック・マッカーシー 黒原敏行訳

4152089261ザ・ロード
黒原敏行
早川書房 2008-06-17

by G-Tools

デイ・アフター・ジャンルのサヴァイヴァルSFという設定ではあるものの、父子の周辺をぼうっと浮かび上がらせる程度の情報描写がうつろっていくのみでジャンルものの妙味は一切ない。まあ、そこを期待して読むわけでもないのだけれども、それらジャンルの宣言によって制約を取り払えたおかげで「血と暴力の国」で設定したシガーのような異常値が物語を錯乱させることもなく、ただそこに在る世界によって善が傷つけられその存在が剥奪されんとする様を硬質な叙情と圧力の高い筆致で描いた、マッカーシーのコアを凝縮したともいえる傑作。本作はある意味「血と暴力の国」のラストで語られる二回目の夢をメタワールドとしたような話で、作中で何の説明もなく、だけれども善の真髄として語られる“火を運ぶ”という行為は前述の夢の中で既に語られた話であって、少年=火=善とすれば、少年を明日に届けることこそが我々が世界に果たせる約束なのだという命を賭した父親の覚悟が灯した明かりは、保安官の夢の明かりよりは一瞬眩しくすら感じられ、続く川鱒のくだりもノスタルジーの刻印というよりは屹立した訣別と微かな希望の萌芽が見てとれるのが哀しくも清々しくすらあって、その美しい認識と決意がとても善い。
posted by orr_dg at 23:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | Book | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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