2008年03月01日

ナイフ投げ師/スティーヴン・ミルハウザー

4560092036ナイフ投げ師
柴田 元幸
白水社 2008-01

by G-Tools

面白い。面白くて仕方がない。表題作「ナイフ投げ師」では、この短篇集に通底する“限界の不在”が“正当な境界”を侵食する不穏な快感に混乱しつつも目をそらせない私たちが描かれる。「夜の姉妹団」は以前の訳者撰集を読んだ時はピンとこなかったけれどここにこうして組み込まれると俄然鈍色に輝き出して、小さく静かなフェイドアウトが沁みる。「空飛ぶ絨毯」では“限界”を突破する光景が一瞬鮮やかに描かれ、「ある訪問」では“限界”の向こうに横たわる調和を蛙を妻に娶った友人に託して描く。虚をつかれた感じだったのは“十五才になった夏、僕はもはや眠れなくなった。”と始まる「月光」の静謐でヴィヴィッドな幻想で、敷きつめた夜の青で描いた青春の通過儀礼が切ないくらいに美しい傑作。これらを含む12篇が「絶対性」の在処へ足を踏み入れた人間と彼らの蠱惑に揺さぶられる世の中との実のところグロテスクとも言える関係が、目眩ましのように巧妙精緻な語り口で鼓動のリズムを保ったまま微熱の譫言のように書きつづられていく。こういう感覚の襞をこんな風な文章で読みたいとずっと思ってきたんだよ、と頭の隅が熱っぽく疼きながらページを繰る手触りは『あなたに不利な証拠として』を読んで、あぁうぅ言ってた時を思い出してこれは本読みの心底至福な瞬間。それにしてもただただうっとりと歎息ばかりで、この気持ちどうしてくれようか。
posted by orr_dg at 15:36 | Comment(0) | TrackBack(0) | Book | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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